立命館大学様|「エクストリーム卒業生」を通じて新学部の未来をリアルに描く。ご担当者様・ゆめみ担当者による鼎談
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立命館大学|「エクストリーム卒業生」を通じて新学部の未来をリアルに描く。ご担当者様・ゆめみ担当者による鼎談

京都に本部を置く立命館大学は、1900年に創立された私立総合大学です。人文社会科学から理工学、国際関係、スポーツ健康科学まで、幅広い学問領域をカバーし、国内外から多様な学生が集う学びの場として発展を続けています。

そんな立命館大学が2026年4月に開設を予定する「デザイン・アート学部/デザイン・アート学研究科」は、感性と論理を融合させたデザイン人材の育成を目指す新たな挑戦です。これまで複数の学部においてそれぞれの専門領域の観点から行われてきたデザイン教育をより専門的に独立して展開することで、社会の多様なニーズに応えることを目指しています。

ゆめみは、本学部の設置委員会の事務局長を務める八重樫 文教授とともに、学部創設の背景や目的を関係者に正しく伝えるための共創を行ってきました。

なかでも「エクストリーム卒業生」と名付けたプロジェクトでは、未来の社会で活躍する卒業生像をSFプロトタイピングの手法で具体化。学部の設置構想を、誰もが直感的に理解できるストーリーへと翻訳しながら、同時にカリキュラムの妥当性を多面的に検証するための起点にもなりました。

本記事では、「産学協働の新しいかたち」を目指した本取り組みのプロセスと背景を、鼎談形式でご紹介します。

(※「デザイン・アート学部 デザイン・アート学研究科」は2026年4月設置構想中。設置計画は予定であり、内容は変更となる場合があります。)

 

本事例のハイライト

立命館大学の新設学部「デザイン・アート学部」設置構想において、ゆめみはSFプロトタイピング等の手法を通じて構想の具現化を支援。行動観察の手法を応用し、2030年に本学部を卒業する学生を「エクストリーム卒業生」と名付けて未来を描き出しました。
抽象度の高い構想を具体的なペルソナやシナリオへと翻訳し、関係者間の共通理解の形成に貢献しました。

クライアント

立命館大学(学校法人立命館)

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座談会参加メンバー

立命館大学
デザイン・アート学部 デザイン・アート学研究科 設置委員会 事務局長 八重樫 文 教授

株式会社ゆめみ
CDO兼プリンシパル・プロダクトデザイナー 野々山 正章
プロダクトデザイナー 岩崎 桃子

立命館大学様|「エクストリーム卒業生」を通じて新学部の未来をリアルに描く。ご担当者様・ゆめみ担当者による鼎談【中央】立命館大学 八重樫教授 【右】ゆめみ 野々山 【左】ゆめみ 岩崎

 

総合大学に芸術の風を。「デザイン・アート学部」設置構想の背景

──本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、立命館大学が新しい学部の設置へと踏み切った背景を教えていただけますでしょうか?

八重樫教授: 立命館大学ではこれまで、複数の学部において、それぞれの専門領域の観点からデザイン教育を展開してきました。しかし、社会のニーズが高度化・多様化するなかで、より専門性の高いデザイン人材の育成が求められるようになり、新たに「デザイン・アート学部」として独立させる構想が立ち上がりました。

本学は16学部を擁する総合大学ですが、芸術系の学部が存在せず、学問領域に偏りがあるという課題もあります。理性や論理を重視する傾向が強まるなかで、感性や創造性に基づく学びの場が求められていると考えていました。

さらに、立命館大学は京都・滋賀・大阪にキャンパスを展開していますが、創立の地である京都キャンパスにおいて、より先進的で文化的価値の高い人材育成を進めていく意義もあります。こうした多面的な背景から、デザイン・アート学部の設置構想が動き出しました。

──総合大学としてのバランスの再設計、そして京都という文脈での再活性化も含まれているのですね。本学部の学生は、具体的にどのようなことを学ぶのですか?

八重樫教授: 日本国内の大学でデザインを学べる機会は増えてきましたが、それぞれの学部の文脈にとどまりがちです。たとえば、工学部では工学的なデザイン、社会学部では社会科学的なデザインが中心となります。

しかし、実社会におけるデザインは、単一分野では完結しません。あらゆる業界・領域に広がる中で、それを包括的に捉え、専門性をもって対応できる人材が必要とされています。本学部では、こうした広がりを体系的に理解し、責任を持ってデザインに取り組めるプロフェッショナルの育成を目指します。

また、「デザイン・アート学部」という名称の通り、単なるデザインスキルの習得にとどまらず、アート的視点や感性を重視した学びを大切にします。論理中心に偏りがちな現代のデザイン教育を、感性と論理のバランスで再定義していきたいと考えています。

デザイン・アート学部 デザイン・アート学研究科 設置委員会 副委員長 八重樫 文 教授

──そのような新たな学びを経て、卒業生の方々が社会でどのように活躍していくことを想定されていますか?

八重樫教授: 理想的なのは、従来デザイナーやアーティストが活躍してこなかった領域にも進出していくことです。たとえば、人事や経理といったバックオフィス、あるいは金融業界など、これまであまりデザインと結びつかなかった分野でも、デザイン思考や創造的なアプローチが活かされる時代になると考えています。

社会全体で「デザインが活きる場所」が拡張していくなかで、大学からもそうした力を発揮できる人材を継続的に輩出していく。その両輪が揃ってこそ、真に意味のある変化が生まれると信じています。

野々山: 実際に、従来の枠を超えて活躍するデザイナーも増えています。別々の分野だと思われていた、法律や文化人類学、カルチャーといったドメインを横断するなど、既存の職種に収まらない存在が社会を刺激しています。

デザインの力を社会のあらゆる場面で活かす人が、今後ますます増えていくのではないでしょうか。

新学部の構想を「伝わる」かたちに。ゆめみとの共同プロジェクトを開始

──2020年以前から動き出されていたというデザイン・アート学部の構想ですが、外部の企業にプロジェクト参画を依頼された背景について教えてください。

八重樫教授:デザイン・アート学部では、単に教育内容を刷新するだけでなく、産学連携のあり方そのものも見直したいと考えています。

現状は、大学が育成した人材を企業が「受け取る」かたちが一般的ですが、それでは人材が噛み合わず、ミスマッチが起きてしまう。結果として「では、企業に求められる人材を大学で育成しよう」という逆転現象が起こり、教育の本来の目的がずれてしまうケースもあります。

ですがこれからの社会では、どんな人材が社会に必要なのかを大学と企業が対話を通じて共に構想し、共に育てていくという関係性が必要です。

そのために、学部の構想段階から産学協働の体制をとっていきたい。さらに学部の開設後は、カリキュラムや大学運営も企業や社会と一緒に取り組んでいきたい。社会との接続を前提とした、新しい連携のかたちを模索していく必要があると考えていました。

デザイン・アート学部 デザイン・アート学研究科 設置委員会 副委員長 八重樫 文 教授

──「産学協働の新しいかたち」として、ゆめみと連携することになったのはどういった経緯があったのですか?

八重樫教授: 実は、学内での意思決定や説明のプロセスにおいて、いわば「社内コミュニケーションの壁」に直面していました。

企業に置き換えるなら、新規事業チームが抱く熱意や構想が、他部署にうまく伝わらないような状態です。文脈の違いから誤解を生んだり、的外れな批判を受けたりと、共通理解を築くことの難しさを痛感していました。

とくに今回は、立命館大学にすでにある16学部の教職員、法人各部署の職員たちに納得してもらう必要がありました。そこで、普段から複雑な構想や抽象度の高いメッセージを翻訳し、伝わるかたちに落とし込むことを得意とするゆめみさんに相談したんですね。

野々山: ご相談いただいた時点では、学部の構想文書だけが出来上がっていたので、まずはそれをわかりやすく紐解き、誰にでも伝わる言葉や図解、構成に落とし込むことからプロジェクトをスタートしました。

加えて、「この学部に入りたい」と思う高校生像であるペルソナを設定したり、教育コンセプトを視覚的・物語的に表現したりと、サービスデザインの手法を取り入れながら、プロジェクトを進めていきました。大げさな言い回しかもしれませんが、ブランディングとサービス設計が融合したようなアプローチになったと思います。

ゆめみ野々山

「エクストリーム卒業生」を通じて、リアリティのある未来のシナリオを描写

──本プロジェクトの中心である「エクストリーム卒業生」は、どのような取り組みなのですか?

八重樫教授:日本では、デザインを学べる大学はまだ限られており、学科単位で30人前後の規模が一般的です。しかし、新設するデザイン・アート学部では、年間およそ180人の卒業生を輩出することを想定しています。

このスケールで社会に人材を送り出すにあたって、学内でも「それだけの人数が活躍できる場が本当にあるのか」という問いが生まれました。

そこで私たちは、この学部から最初の卒業生が出る2030年に、彼ら・彼女らが社会でどんなふうに活躍するのか、未来をあらかじめ描き出す必要があると考えました。それが「エクストリーム卒業生」です。

野々山: プロダクトデザインの企画を考える時に使う、「エクストリームユーザー調査」という手法があります。あるプロダクトにおいて、想定外の使い方をするユーザーを調査することで、次の社会への転換の兆しが得られる、というものです。

たとえば、2000年代前半に、ノートパソコンを外で、立ちながら膝の上で使っているような人が秋葉原周辺にいました。彼ら・彼女らに同行調査をしていくと、一般ユーザーとは全然違うノートパソコンの使い方をしていて、そこからは次世代のネットワーク端末であるスマートフォンの兆しが見えてきます。

そういったことをヒントにして、今回は、学部から将来輩出されるであろう卒業生の中でも、特に社会に新たな価値を提示するような存在をエクストリーム卒業生として描きました。彼ら・彼女らの姿を通して「こんな価値を創出できる人を育成するんだ、そのための環境を整えるのだ」と学内の職員の方々がイメージできるようになったらいいな、と考えたんです。

八重樫教授: 際立った卒業生のイメージを具体化したいという意図のほかにもうひとつ、デザイン・アート学部がそういった人を生み出すカリキュラムや構造を用意できているのかどうかを検証したい、という意図もありました。

──実際には、どのようにエクストリーム卒業生を描いていったのですか?

岩崎: 「最初の卒業生が社会に出て5年経った2035年に、エクストリーム卒業生にインタビューする」という設定で、3名の仮想人物の物語を描きました。生い立ちから大学選び、在学中の経験、卒業後のキャリアまでを一貫したストーリーとして構築しています。

ゆめみ野々山、岩崎

岩崎: まずは、すでに世の中で活躍している人材をリサーチし、参考になる人物像をリストアップ。その上で学部構想や八重樫教授との対話、既存の他大学の事例などを参照しながら、エクストリーム卒業生に共通するポイントを3つ挙げました。

「秀でた技術や能力を社会に揉み込む」
「対象の可能性を強く信じ、そして強く疑っている」
「ゲームチェンジャーではなく、ルールチェンジャー」

これらの共通点が大学時代にどう花開き、実現に向かっていくかをストーリーに織り込むイメージでシナリオを作成しました。

エクストリーム卒業生

──シナリオを構築する上で、苦労された点はありましたか?

岩崎: まだ学部も卒業生も実在していないなかで、リアリティをもって未来を描くのは手探りだった部分もありました。なるべくリアルであることが重要だと考えていたので、さまざまな資料や人物、社会背景を調べて構築していきました。

エクストリーム卒業生 エクストリーム卒業生「エクストリーム卒業生」を描いた、ゆめみ作成の資料(一部)

野々山:2025年時点で、2035年の進んだ未来の話をしても「わからない」という反応をされてしまうことが多いんですよ。だからこそ、「半歩先」の未来に着地させることが難しく、かつ重要でした。

たとえば、エクストリーム卒業生の一人はキャリアのなかで宇宙旅行や宇宙生活のデザインに携わっていくのですが、そこには「妊娠中でも楽しめる宇宙旅行」という言葉が登場します。このように、今はまだ実現していないけれど、10年後にはありそう、と思わせるラインが難しいですね。

八重樫教授: そうですね。10年後は遠いようで近い未来です。さまざまな未来の可能性を踏まえて、私たちも今から動き出す必要があると考えています。

たとえば、宇宙旅行が一般化し、パッケージ化されたタイミングで「じゃあ、うちも宇宙留学プログラムをつくりましょう」では遅い。今のうちからJAXA(宇宙航空研究開発機構)に留学の相談を始めておくなど、フィジビリティを検証していくことが重要だと感じています。

このように、実際にどういうカリキュラムをつくるのか、どう社会と接続させていくのかを思考するプロセスにおいて、エクストリーム卒業生の設定が与えてくれた影響は大きかったですね。

八重樫教授とゆめみメンバー

社会が本当に必要とする能力を、共に考えかたちにしたプロジェクト

──エクストリーム卒業生を描き出したことで、ほかにはどのような変化がありましたか?

八重樫教授:本学部の設置委員会の事務局や検討部会には、デザインやアートの専門性を持たない職員も多く関わっています。そうした方々に、私たちが目指している学部のビジョンや意図を言葉だけで理解するのは難しい部分もあります。

そこで、「この学部はこういう卒業生を生み出すことを目指している」といったストーリーを共有することで、共感と理解を得ることができました。身近なところから少しずつ仲間を増やしていく。そういったインターナルコミュニケーションの観点でも大きな価値を発揮していると感じています。

──ゆめみのお二人は、このプロジェクトを経験してみていかがでしたか?

岩崎:本当に楽しかったです。ここまで自由に、未来の可能性について考えるプロジェクトに携わったのは初めてでした。私たちは普段、アプリやウェブサービスなどのデジタルプロダクトをアウトプットとすることが多いのですが、今回はアウトプットが「シナリオ」や「ビジョン」でした。

こうした手法は、大学の枠を超えて、行政や民間企業など、さまざまなフィールドでも応用が可能ですし、取り入れるべきだと感じました。

野々山: ゆめみでは、デザイナーが関わるプロジェクトの多くがプロダクトやサービスのシステム設計に直結します。今回のように、構想や世界観そのものを可視化するプロジェクトに関われたことは非常にありがたく、自分たちの強みを活かす良い機会になったと感じています。

ゆめみ野々山、岩崎

──八重樫教授は、ゆめみとの協働はいかがでしたでしょうか?

八重樫教授: この取り組みは、「社会が本当に必要とする能力」を企業と一緒に考え、形にしていくという意味で、非常に意義のあるプロジェクトだったと思います。

私は現在、経営学部でデザインマネジメントを教えていますが、ゼミ生が就職活動をすると、企業の面接官に「デザインマネジメントって何?」という反応をされるケースが少なくないそうです。社会と教育の接続がうまくいっていない現状に、もどかしさを感じています。

岩崎さんは、ゆめみに新卒で入社されて2年目(※当時)ということもあり、「大学で培ってきた力をそのまま活かしてほしい」と伝えてきました。今の大学のデザイン教育は、実は社会のなかでも十分に通用する水準にある。にもかかわらず、企業側がそれを十分に受け止められていない。非常にもったいないと思っています。

岩崎: 八重樫教授から「今までやってきたことは社会でちゃんと通用する」と言っていただけたことは、大きな励みになりました。

野々山:スキルって、後から積み立てることもできると思うんですよね。大事なのはデザインの考え方を骨の髄まで染み込ませられる環境であること。それを再認識したので、エクストリーム卒業生に関しても、「自分で考えられて、動きだせること」という点をとても重視しました。

そんなデザイナーが増えていくきっかけを担えることはとても嬉しいですし、ゆめみの未来にも繋がっていくと思います。2030年に我々がデザイナーの採用をしたら、立命館大学から、いい学生がたくさん来てくれるんじゃないかなと期待しています。

──そんな未来がきたら本当にいいですね!ありがとうございました。これからも立命館大学のパートナーとして、ともに未来をつくるお手伝いをできれば嬉しいです。(了)

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